2012年11月7日水曜日

デッ

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ジェンティルドンナとヴィルシーナが演じたのはデッドヒート?
2012年11月07日

 今週はGIです、エリザベス女王杯。けさは追い切りが行われました。
「ヴィルシーナ完熟」という見出しとともに東スポ1面をヴィルシーナ追い切り詳報が独占しました。「2着はもういらない」と。

 本文を読むと、ヴィルシーナは春のオークスから一連のレースでジェンティルドンナの2着ばかり。前走の秋華賞では「得意の馬体を併せてのデッドヒートに持ち込んだがわずか7センチ及ばず」と書いてあります。
 たったの7センチ。確かに激しい争い、ではありました。でも、よく考えたほうがいいかもしれません。あれは、ヴィルシーナは自分の力を100%出し切った内田博騎手のファインプレー。全くロスのない乗り方できっちり乗ってきたと言えるでしょう。しかし、それ以上ではないことも忘れてはなりません。ジェンティルドンナこそがあの位置からとんでもない競馬をして、普通に力通り走ったヴィルシーナを、信じられないほどの能力で差し切ってしまった、というのが実情です。褒められるべきはジェンティルドンナ。恐るべき底力、なのです。ヴィルシーナは普通のオープン馬。ここで図抜けているとは思えません。一連の2着での3着馬を見ればよく分かります。エ女王杯はどこからでも買える面白いレースといえるでしょう。検討のしがいがあるというものです。

 さて、ヴィルシーナがジェンティルドンナと演じたという「デッドヒート」。この言葉は英語からの外来語として、日本では広くスポーツ全般、ひょっとするとスポーツ以外でも接戦、激戦という戦況・状況を表現する言葉として一般化しています。言葉の出どころを少しも疑われてはいないようです。ここでちょっと分析してみましょう。
 英語にしてみるとdead heat。デッド(死んでいる、へとへとの)もヒート(熱)もやさしい英語だし、中学英語を終えた人ならつづりも意味もよくお分かりでしょう。おそらく、辞書をひいてみた、なんて人もいないのではないでしょうか。

 ところで、英語のdead heat、どこかで読んだことがあるような気もしますが、はっきりした記憶はありません。なぜか? それは日本語になっているし、同じ意味だと思っているから英語でも出てきているのに気がつかなかった、ということではないでしょうか。
 念のため、と思って、アメリカの辞書サイトを訪ねてみると……?????とんでもないことが分かりました。

 日本語のデッドヒートと英語のdead heatは意味が違うのです。まさか、と思って日本の英和辞典をいくつかひいてみましたが、やはり意味が違うのです。これは驚き。今まで知らなかったのが恥ずかしい。
 英語のdead heatはなんと「同着」なのです。激しい争いをしただけではなく、結果としても同時入線、同着という判定がdead heatなのでした。
 英語の同着にはstandoff(スタンドオフ)、draw(ドロー)、tie(タイ)という言葉がありますが、dead heatはそれらと同意語なのです。特に1着同着を指しています。これは18世紀にイギリスの競馬から生まれた競馬専門用語。今でも競走用語として、同着という意味で使われています。
 だからジェンティルドンナとヴィルシーナの秋華賞の“死闘”は英語ではdead heatではなかったのです。では、あのような激しい争いを英語ではなんて言うのか?
 neck-and-neck(ネックアンドネック)が適当なのでは? ネックは首だから「首と首」を並べた競り合いというわけです。

A and B ran a neck-and-neck race, which ended in a dead heat.
(AとBは激しく叩き合って、結局は同着に終わった)

 と、こんな具合です。ジェンティルドンナとヴィルシーナは「デッドヒート」ではあったがdead heatではなかった、ということになります。
「デッドヒート=激しい戦い」は日本語でした。海外へ行ったら誤用しないように気をつけたいものです。

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