2012年11月23日金曜日

7cm

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日曜・東京11R【ジャパンカップ】ジェンティルドンナ

秋華賞を制し、史上4頭目となる3冠牝馬に君臨したジェンティルドンナ。わずか7cm差の辛勝ではあったが、特殊な流れのなか、勝ち切ったことに価値がある。
古川慎司調教助手は、こう安堵の表情を浮かべた。
「ローズSは2番手から抜け出す正攻法の競馬ができ、1馬身半差の完勝。当然、注目を集めますし、落とせない一戦でした。ひやひやしたぶんも、感激しましたよ。動くに動けない厳しい展開。2着のヴィルシーナが最高のポジションで進めていましたしね。普通はありえない極限の脚があるからこそ、なんとか凌げました。改めて、すごい才能の持ち主だと思い知らされましたよ」

エリザベス女王杯でなく、いきなり高いハードルとなるジャパンCに挑むのも、レースの格にふさわしいスケールを見込んでのこと。状態もさらに上向いている。
「夏場の休養により、少し背が伸び、体に丸みが出て、期待どおりに成長しました。もともと気持ちは優しく、とても賢い反面、春当時までは自己主張が強かった。精神的にも大人になりましたね。前走後はノーザンファームしがらきでの短期放牧を挟みましたが、幸い反動もなく、張りのある好馬体を維持。安心してペースアップできましたよ。かつては環境が変わると、周囲に過敏になってピリピリしがちだったのに、まったく力むことがありません。それでいて走りに集中でき、楽々と加速。完成の域に入ってきた手応えがあります」

無敗でクラシック3冠馬となり、4歳時も圧倒的な内容でG1を4勝したディープインパクトが父。母ドナブリーニ(その父ベルトリーニ)はイギリス産で、G1・チェヴァリーパークSを制した名牝である。同馬の全姉が先週のマイルCSを3着したドナウブルー(京都牝馬S、関屋記念、ヴィクトリアマイル2着)。サンデーサラブレッドクラブでの募集総額は、姉を凌ぐ3400万円の設定だった。
「ドナウブルーに関しても、もともとも底知れない素質を感じていて、ようやく歯車がかみ合ってきたところ。この仔も同様に天才肌ですが、雰囲気はだいぶ異なります。伸びやかでありながら、たくましいスタイル。母は早熟のスプリンターでも、心肺機能が桁違いですし、当初から距離をこなせそうな感触がありましたね。速いところへいけばイメージが一変。どんなにハードな内容を求めても、息遣いが乱れず、脚が上がることもなく、常にこちらの要求を超えてしまいますので」

ノーザンファーム空港で基礎固めされた同馬は、暑さが和らぐのを待ってNFしがらきへ。10月5日、栗東へ入厩した。ゲート試験を1回でパスすると、順調にスピードメニューを消化する。11月19日、京都の芝1600m(2着)でデビュー。コースロスなく逃げた勝ち馬を捕らえ切れなかったが、豪快な伸び脚は目を引いた。
「敗因は不良馬場。好スタートを切りながら、馬場の荒れていないところを選んで走らせ、直線も大外へ持ち出したのが裏目に出た結果です。実戦でも精神面のコントロールが利き、確かな能力は示しています」

12月10日の阪神(芝1600m)では、一転した積極策。直線で余力たっぷりに先頭に立つと、あっという間に3馬身半の差が付いた。シンザン記念も、きらりと光る勝ち方。好位から一瞬にして抜け出した。無理なく賞金加算でき、本番から逆算してローテーションを組めた。チューリップ賞は4着に終わったものの、時計を1本マークしたところで、熱発するアクシデント。いかにもトライアル仕様だった。狙い定めた晴れ舞台では、持ち前の瞬発力を遺憾なく発揮していく。
「着実に状態を上げ、桜花賞(レースの上がりを1秒0上回るラスト34秒3の切れで差し切り)へは自信を持って臨めました。抜けたポテンシャルの持ち主だと確信できましたし、折り合いも付きますので、オークスでもやれると見ていましたね。でも、パドックであれほどテンションが上がるとは。スタート前は不安で仕方がなかった。それなのに、レースへいけばきちんと我慢でき、2着に5馬身差の圧勝を演じてくれたんです」

今回と同じ東京の1マイル半で、次位を1秒0も凌ぐ34秒2の豪脚で突き抜けている。距離延長、左回りコースともプラスに働く。
「斤量の恩恵がありますし、オークスの勝ちタイムからも、絶好のチャンス。年度代表馬への夢を託して送り出しますよ」

キャリアを重ねるごとに美しさを増す貴婦人(イタリア語でジェンティルドンナ)は、年長のトリプルクラウンホースや世界の強豪が相手でも、栄光のゴールを華麗に駆け抜ける。

日曜・東京11R【ジャパンカップ】

◎ ⑮ジェンティルドンナ
○ ⑰オルフェーヴル
▲ ⑩ダークシャドウ
△ ③ジャガーメイル
△ ④フェノーメノ
△ ⑬ルーラーシップ
△ ⑧エイシンフラッシュ
(自信度AA)
─ 小平奈由木 ─
こだいらなゆき
早稲田大学日本語研究教育センターに勤務した後、競馬関係に進む。競馬専門紙「1馬」の記者、法人馬主「サラブレッドクラブラフィアン」のレーシングマネージャーなどを経て、現在はフリーランス。業界のキャリアは20年近くになり、生産・育成現場からトレセンまで精通。
清水成駿氏の公式サイト「SUPER SELECTION」に毎週連載中の「トレセン尋ね人」や、月刊誌「競馬最強の法則」の人気コーナー「トレセン最前線」をはじめ、幅広い知識を生かしたエッセーが評判になっている。

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