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『芹澤劇場-「日めくり」=第1部』ジェンティルドンナは凱旋門賞級
2012年5月20日=ジェンティルドンナは凱旋門賞級
桜花賞を2番人気で勝った馬がオークスでさらに人気を下げて3番人気になるようなことはめったにない。ディープインパクト産駒なのに下馬評では桜花賞馬ジェンティルドンナに距離不安がささやかれていた。
1週前のヴィクトリアマイルで全姉のドナウブルーが2着。マイラーとして一級の素質があることを証明していた。この姉妹の母の父ベルトリーニは唯一の重賞勝ち(GIIIジュライS)が1200メートル戦で、母もチェヴァリーパークS(GI1200メートル)を勝ったスプリント戦の名牝だったからだ。
それが血統論者の堅い頭をかち割るかのような衝撃的な圧勝だ。過去のオークスでは重馬場でケイキロク(昭和55年)の5馬身差、稍重でテスコカビー(昭和50年)の8馬身差、不良でジュピック(昭和45年)の5馬身差、不良でヒロヨシ(昭和41年)の9馬身差などがあるが、良馬場のスピード競馬ではジェンティルドンナほど爆発的な脚で後続に5馬身もの差をつけた牝馬は、オークス史上1頭もいない。これまでの2分25秒3(ローブデコルテ)を1秒7も縮める2分23秒6のレースレコードも凄い。
私は昨年の凱旋門賞でのデインドリームの鮮烈な直線シーンを思い出した。ドイツの小さな3歳牝馬にラスト200メートルで後続に5馬身差をつけるケタ違いの破壊力を見せつけられ、私は度肝を抜かれた。2分24秒49はレースレコードだった。
3歳牝馬が凱旋門賞で活躍することが珍しくないのは、ひとつに斤量が有利だといわれている。有馬記念では3歳牝馬と4歳以上の牡馬との差は53キロ対57キロの4キロ差。凱旋門賞のそれは5キロ差だ。
「優駿」4月号のロングインタビューで、ジェンティルドンナを生産したノーザンファーム代表の吉田勝己さんは、ジョワドヴィーヴルが桜花賞とオークスを勝ったら凱旋門賞に挑戦させると語っていた。
「私はマーケットブリーダーとして、勝算のあるレースだけを狙いに行きます。自分の夢を追いかけて、そこに出たいから行く、ということは絶対にありません。凱旋門賞を狙うなら、3歳牝馬で行くべきです。4歳以上の牡馬が59.5キロを背負うのに対し、3歳牝馬は54.5キロでいいのですから、斤量面で圧倒的に有利ですよね。牡馬の場合、三冠がかかっていたりすると遠征が難しくなるので、その意味でも牝馬のほうがいい。ブエナビスタも行くつもりでいたのですが、札幌記念で負けたのでやめたんです。ジョワドヴィーヴルも、桜花賞とオースクを勝ったら行くと思います。フランスで前哨戦を使うつもりはありません。宝塚記念も考えていない。うちの馬は、夏場を北海道で過ごして秋に飛躍するパターンが多いこともあって、使うとしたら札幌記念でしょうね。そのあとはノーザンファームしがらきで仕上げて、そこからまっすぐフランスに行き、15-15ぐらいの調教で使うのがベストだと思います」
にもかかわらず、吉田さんはジェンティルドンナを凱旋門賞に登録しなかった。5月10日にJRAから発表された凱旋門賞の日本馬の登録は8頭。そのうちノーザンファームの関係馬はオルフェーヴル、ルーラーシップ、ワールドエースの3頭だった。この時点でジェンティルドンナは桜花賞を勝っていたのに、である。
オークスのレース後、勝己さんの子息で、サンデーレーシング代表の俊介さんは「距離不安説の声もありましたし、まさかこれほどの強さを見せるとは…」と驚きの声をあげていた。凱旋門賞に登録をしなかったことからみても、関係者でさえ、オークス5馬身差勝ちは想像以上のパフォーマンスだったに違いないのだ。
前半1000メートルの通過ラップが59秒1、2000メートルのそれが2分ジャストという緩みのない流れで、残り400メートルが11秒8→11秒8のレベルの高い瞬発力勝負だった。ジェンティルドンナの末脚は、まさに昨年の凱旋門賞時のデインドリーム並みだったといっていい。
桜花賞からわずか1カ月半の間に急激なパワーアップを遂げたことも見逃せない。桜花賞時の追い切りは1週前が坂路で54秒5、本追い切りが53秒6。オークスのそれは、自己レコードの51秒4と52秒5。これだけ調教を強化しながら、しかも初めての調教輸送で馬体重はプラス4キロの460キロだった。数字の上でも1カ月間での大きな進化ぶりがうかがえる。
牝馬2冠を達成したら、3歳牝馬で凱旋門賞に挑戦させるのが得策という吉田勝己代表は、はたして追加登録をして凱旋門賞に「勝ちに行く」のだろうか。大いに注目される。(トレンド競馬主筆)
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