2012年10月8日月曜日

想定

http://column.keibalab.jp/interview/stabler/630/
上半期G1で最も衝撃的なパフォーマンスといっても過言ではなかったオークス圧勝から4ヶ月。秋緒戦のローズSでさらなる成長を見せ付けたジェンティルドンナ。すでに多くのファンが2010年アパパネ以来となるクラシック牝馬三冠を信じて疑わない状況だが、陣営のプレッシャーとはいかなるものなのか……。これまでも的確なコメントそのままの結果を残してきた古川慎司調教助手に、大一番直前の手応えを訊ねてみた。

本番を想定したリハーサルをクリア

-:ローズSは素晴らしい内容で、おめでとうございました。

古川慎司調教助手:ありがとうございます。

-:まさに京都2000mの内回りを想定したようなリハーサルができたと思うのですが、振り返っていかがですか?

古:そうですね。ジョッキーも言っていたように「内回りを意識して、内容も結果も両方求めるつもり」で臨んでくれたみたいですが、いつも通りというか期待以上のパフォーマンスだったと思いますね。

-:予想以上に乗りやすそうな馬だというレース内容だったと思います。

古:若干、周りの評価と僕ら厩舎陣営のジャッジはギャップがあるのですけど、とにかく折り合いに問題のないタイプです。どうしても未勝利戦とかシンザン記念とか前走を見て、「掛かるんじゃないか」と不安視する方がたくさんいらっしゃるんですけど、3走共に共通して言えることは、意識的にポジションを取りに行って、出して行ったからです。スピードが乗り過ぎて、急ブレーキをかけるような格好になるので、引っ掛かっているように見えるだけです。


-:見た目が引っ掛かっているように見えるだけですね?

古:ハイ。本当に馬がジョッキーのコントロールの範囲を超えて行きたがっているレースは1度もありません。見た目に引っ掛かっているようには見えるのだけど、あれはみんな好位を取りに行くために、ちょっとプッシュしていった結果、前と若干詰まるような形になって、それを控えるのに引っ張って頭を上げたり、少し引っ掛かっている格好に見えるだけです。桜花賞の時とかチューリップ賞の時もそうでしたし、もちろんオークスの時もそうでしたが、本来、何もジョッキーが手を動かさなかったら、あの位置になる馬です。むしろ引っ掛かるということは僕らは皆無だと思っています。

-:真逆のちょっと促してやらなければならない馬ということですか?

古:そうです。引っ掛かっているように見えた3走は出していっているんで、ハミも噛みますし、トップスピードに乗りますから。前回は京都の内回りを意識して、やむを得ず出していくレース内容になったと思うので、そのように見えたかもしれないですね。

-:オークスを振り返ると、ある程度流れたレース内容の中で、あの馬の乗りやすさというか好きな所で走れました。だからこそ、あの末脚が発揮できたのでしょうね。

古:そうですね。そうだと思いますね。

-:あのレースでもはっきりと同世代とは力の差が明確になって、あの馬が3番人気だったというのが、振り返ると不思議なくらいです。

古:それは馬券を買うファンの方が決めることなのでね。ただ、常に1番人気のつもりで競馬には臨んでいます。それだけの馬だと思っています。

■「スピードが乗り過ぎて、急ブレーキをかけるような格好になるので、引っ掛かっているように見えるだけです」

-:今回は3冠最後の秋華賞なのですが、多分圧倒的な1番人気になると思いますが、その舞台が京都の内回りの2000mというところの苦労というか、心配点は何かありますか?

古:前走である程度悪いイメージというのは払拭されましたが、先行激化になった時に、あえて先行してポジションを取りに行くかというところですね。もちろんレースの流れの中で、たまたまその日の秋華賞は先行争いが激しくなって、ハイペースになりましたという展開になった時に、あえて同じ乗り方をするのかということなんですね。折り合いは付きやすいかもしれないけど、そしたら控えた方が良いのかということもありますしね。前走はあくまでも京都の内回りに対応した予行演習みたいなもので、必ずしも同じ乗り方になるとも思わないです。唯一心配は京都の内回りは紛れが生まれやすいという、本当にそれだけですね。実力通りなら良い結果が出るんじゃないかとみんなそう思って期待しています。紛れが起こるかどうかだけですね。

-:普通のファンも紛れに関しては考えると思うのですけど、ジェンティルドンナの今までの走りを見ると、たとえ大外枠に入っても、多分勝つと思っているファンが多いと思うのですが、正直な話。

古:オークスのあのポジションからの末脚を見ればね。もしかしたら届くんじゃないかと思いますけど。僕らプロフェッショナルの目から見ると、3コーナー最後方、4コーナー大外では厳しいですよ、やっぱり。たとえG1・2勝馬でもね。そういう展開以外であれば……。もちろん前が壁になるとかいう不利さえなければですが。4コーナー大外直線だけでというほど、G1は甘くないと思います。その辺はジョッキーも考えて乗ってくれるのではないでしょうか。

すこぶる順調!万全の状態で牝馬3冠に臨む

-:気になる状態ですが、昨日(10/4)1週前追い切り(坂路4F52.6-12.9)でしたが、馬場状態がなぜか天侯が晴れだったにもかかわらず、朝一番から時計が掛かっていて、重たい馬場でしたが、ジェンティルドンナの動きはどうでしたか?

古:動きは良かったですが、「珍しく息遣いがしんどそうだった」と井上助手が言っていましたね。時計が掛かって遅かったのですけど、やっぱり強い負荷が掛かっていたのだと思いますね。

-:1週前の追い切りとしては時計よりも負荷が掛かった追い切りが出来て、休み明け2戦目としては万全の状態で秋華賞を迎えられそうですね。

古:と、思います。1週前追い切りに求めるものがシッカリとクリアできたと思います。追い切り後も順調にきていますし、馬体減りもしていません。一応、今日この時点ではすこぶる順調にきていますね。


-:昨日の追い切りでは古川さんはクリスマスキャロルに乗られていて、ドナウブルーと併せ馬をされていました。その後ろにジェンティルドンナが来ていた訳ですが、最後に偶然並ぶシーンがありました。隣でご覧になっていてどんな息遣いでしたか?

古:走っている時は何も問題はなかったですね。結構、後ろから来ていたはずなのに来たかみたいな感じでした。僕のクリスマスキャロルという馬も良い動きをしていたのですけど、やっぱり違うなと思いましたね。走っている最中の息遣いに気になる所はなかったですね。さすがだなと思いましたね。

■「まだ3歳牝馬なので、1つのアクシデントが将来を全てダメにする可能性もあるので、やはり大事に育てたいというところはありますね」

-:今日も別の調教師さんと取材で話をしていたら、もしかしたらジェンティルドンナは世界的な名馬かもしれないとおっしゃっていましたね。

古:ハハハ、そうですか。

-:傍で触れているとやっぱりそういう雰囲気がありますか?

古:エアグルーヴ、ウオッカ、ブエナビスタ、ダイワスカーレット……、牡馬とやっても超一流の牝馬は過去にもいましたけど、正直、そういう馬を触ったことがないので、どのレベルの馬が男馬に通用するのかというのは物差しでは測れないですが、パフォーマンスをみる限りは将来的にはあの域に行く可能性が大きい馬ではないかという気はしますね。

-:ちょっと前よりも日本の競馬界の環境が世界と近くなっているじゃないですか。エアグルーヴの時なんかは海外で走っているレースが少なかったと思うのですが、ジェンティルドンナなら世界の強豪と走る時が来るかもしれないですね。

古:ええ。

-:そう思うキッカケになったのが、今年のオークスを見ると、ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、ダービーに出ていたら勝っていたんじゃないかと?

古:時計だけを見て、最後のパフォーマンスを観ればね。そうおっしゃる方もいますけどね。やっぱりそれだけではない部分があるので、関係者としては「そうだったろうね」とは、ちょっと言い切れないですね。そういう可能性があったのかもしれないというのは、今後、大きい所で一流の牡馬と戦っていった時、もしかしたらそういうシーンもあるのかなという期待は持てるレースだったと思います。あとはまだ3歳牝馬なので、1つのアクシデントが将来を全てダメにする可能性もあるので、やはり大事に育てたいというところはありますね。

-:今年の秋シーズンは有力馬が戦線離脱していって、競馬人気が不安視されるような危機的な状況の中で、ジェンティルドンナにかかるファンの目というのは相当大きなものがあると思います。そういう面でもまずは無事に今シーズンを終わらせたいですね?

古:本当に一厩舎、関係者じゃなくて、競馬サークル全体という意味でも話題性であったり、興味深さであったりという意味で、ジェンティルドンナの存在は大きいと思うので、大事に今シーズンを終わらせたいなと思いますね。

偉業を達成する瞬間をライブで!

-:昨日追い切って、現状で体重の大きな変動はありますか?

古:ないです。先週、今週と同じだったと思います。480ぐらいでプラスマイナス増減はなしでしたね。


-:レースは前回と同じぐらいでの出走となりそうですね。

古:そうですね。470台での競馬になるでしょうね。大幅な体重減とか、増とかはないと思います。だいたい理想的な良い体重で出られるとは思います。

-:気になるのはパドックでの歩き方です。オークスの時がそれほど大人しいパドックではなかったのですが、ローズSのパドックはどのような感じでしたか?

古:大人しかったらしいですよ。当日行っていなかったのですけど。「オークスの時とは別馬のように大人しかった」と聞いていますね。

-:やっぱりそれぐらいの方が良いのですかね?

古:牝馬はね。イレ込んでいるより、あんまりカリカリしてほしくないですね。それでもオークスは勝っちゃったからね……。だから、あんまり心配はしていません。イレ込んでダメになるということはなさそうなのでね。でも、レースに行くまでの消耗することは間違いないので、イレ込むよりは前走のように大人しい方が、関係者としては安心して見ていられますね。

-:ほとんど不安点がない状況で迎える秋華賞なのですが、ジェンティルドンナのファンに一言お願いします。

古:勝って当たり前と思われていることが、逆にプレッシャーになるのですが、そういう勝って当たり前とか1番人気になって当たり前という馬をいかに無事にレースに連れていけるかということが、今は一番命題というか、日々、気を付けてやっていることです。まだレースまでちょっと時間があるので、どうなるか分からないですけど、競馬場で多くのファンに見てもらえばと思って、スタッフ、厩舎関係者みんなやっていますので、競馬場に来てもらって、ぜひ彼女の歴史的瞬間、偉業を達成する瞬間を大勢の方にライブで見ていただければと思っています。

-:ありがとうございました。




【古川 慎司】 Shinji Furukawa

小学5年生時に馬に興味を持ちはじめ、6年生より本格的に乗馬開始。栗東高校馬術部、京都産業大学を経て、滋賀県内の牧場にて1年半勤務。その後、競馬学校に入り1996年1月より栗東トレセンへ。2000年からダーレー研修プログラムでイギリス、ニューマーケットの厩舎などで学ぶ。イギリス人の友人に誘われアメリカのブリーダーズCを見に行ったことがきっかけでアメリカの競りに関わる仕事に携わるようになった。

本格的に日本からアメリカに移住する決心で就労ビザの手配を進めていたが'01年、同時多発テロの影響で全てが白紙になってしまう。人生の目標を見失い、日本での居場所を模索していたところ、
'02年5月、欠員が出たことで石坂厩舎へ。以後、現在まで調教助手としてヴァーミリアンやサンライズペガサス、サンライズキングなどの活躍を裏で支えてきた。

忘れられない馬はサンライズペガサス。「あの馬の背中の感触を超える馬には、まだ出会っていない」

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