2012年10月14日日曜日

戦記

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▼観戦記 長岡利幸
  先週に2歳馬のレースの難しさについて嘆息したばかりというのに、またほとんど予期できない出来事があった。土曜日9Rりんどう賞でのことだ。◎のスイートメドゥーサが発馬直後に急に外に逃避し、騎手が落馬。唖然とした。デビュー戦の勝ちっぷりは文句なしだった。母はローブデコルテという良血。お嬢さん育ち?なのだろうか少し気性が若いことは知っていた。ゲートが課題であることも分かっているつもりだったが、まさか外にすっ飛んで行くとは……。あれでは武豊騎手を以ってしても対処できなかった。調教再審査のため11月12日まで出走停止。アルテミスSとファンタジーSには出られない。大きな誤算であることには違いないけれど、挫折してこそ強くなるということはある。時間はたっぷりある。精神的に逞しく成長して戻ってきてもらいたい。
  ジェンティルドンナが三冠を達成した。普通に◎にしたが、ローズSで内にモタれ、右回りでも十分過ぎるほど強いのだけれど本質的には左利きかも知れないという危惧の念があった。しかし、パドックに現れた時に馬体を見た瞬間、そんな不安は消し飛んだ。それほど素晴らしかった。馬場入場後、岩田騎手が落とされるというちょっとしたハプニングはあったが、これはご愛嬌。結果はハナ差でも上位に入線した馬はこの馬を除きすべて4角まで内を通ってきたのだから、14番枠を克服しての勝利には着差以上の評価を与えていいと思う。JRA史上4頭目の快挙だった。父娘揃って三冠となるとこれはJRA史上初めてである。この後は「強い牝馬」として並み居る男馬を蹴ちらして欲しいと思う。そして、三度あることは四度あった。一矢を報いることは叶わなかったけれどヴィルシーナの頑張りは凄かった。押して押してハナに立った。逆転するためには最良の戦法だ。向正面でチェリーメドゥーサに先に行かれたことが誤算だったか。いや、これは想定内だったと思う。直線の二枚腰は迫力があった。考えてみるとジェンティルドンナ以外の牝馬には負けていないのだから、この馬もまた相当強いといえる。いい秋華賞だった。
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▼観戦記 吉岡哲哉
  カレンブラックヒルの毎日王冠は前半5ハロン57秒8。今年の府中牝馬Sは前半5ハロン59秒7。約2秒遅い。4~5ハロン目に12秒1―12秒1と中だるみがあり、ここでレースの質が決まった。逃げたシースナイプは力不足で15着まで失速。好位組の瞬発力勝負になったと見ていい。スマートシルエットがガッチリ2番手。ペース的にはこの馬自身も楽だが、スパッとは切れない。抜け出すタイミングが肝要。ラスト2ハロン標でもまだ持ったまま、好位の内に収まったエーシンリターンズの方の手が先に動き出した。満を持して追い出したが、すぐ外に忍び寄っていたマイネイサベルの瞬発力が勝っていた。上がり3ハロン33秒0。
  上がり3ハロン32秒7~9を使った馬は4頭いたが、いずれも後方待機組。所詮は後の祭り。この位置で折り合って、この上がりを駆使できる馬に軍配が上がったようである。秋華賞15着、新潟記念17着を除けば、ローズS2着以降、(3)(4)(5)(6)(4)着。ホエールキャプチャとは再三、接戦を演じてきたが、この手のタイプの取捨は難しく、だから、10番人気。勝ち方は伏兵のそれではないが、大一番での勝負弱さはついて回るかも知れない。
  1番人気ドナウブルーは坂上から猛然と伸びたが3着。432キロはVマイル2着時と同じ。馬体減が敗因ではない。敗因は前半でムキになって走ったことに尽きる。折り合いひとつで距離克服は可能だが、やはり、マイラーはマイラーなのだろう。
  さて、ホエールキャプチャ。2番人気、単4.3倍のオッズだから、みんながみんな大幅な信頼を置いていたわけではない。同じ休み明け、同じような馬体重でも、中山牝馬Sの時とは攻めの中身が違った。前を行くスマートシルエットとほぼ同じに追い出したが、いつもならそこからギアが一段上がるのに、まったく反応しない。アクセルを踏んでもまったく前へ進んで行かない、そんな感じで馬群に沈んでしまった。クロフネ産駒は案外、勝負弱くて、ひとたびスランプに陥ると容易には立ち直れない、そんなイメージを私は持っている。巻き返しがあるのかどうか、何とも微妙な状況にあると言わざるを得ない。
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▼血統編 水野隆弘
  秋華賞でジェンティルドンナが史上4頭目の牝馬三冠を達成。父が三冠馬ディープインパクトだから、牡→牝の変則的な形ではあるが、史上初の父仔三冠達成となった。ディープインパクト3歳世代の勢いについては今更いうまでもないが、ディープインパクト産駒同士の長く激しい追い比べでジェンティルドンナもヴィルシーナも互いに一歩も譲らなかった諦めない気持ちは、これまでにない面だったのではないだろうか。これまでは能力の違いでアッサリ決着をつけるケースが多かったですからね。ジェンティルドンナの母ドナブリーニはG1チーヴァリーパークSとG2チェリーヒントンSなど、2歳時に6Fの英重賞に勝っている。3歳まで走って通算11戦4勝で引退するわけだが、出走したレースのほとんどは短距離の直線競馬。アスコット1マイルのコロネーションSが生涯1度だけ走ったコーナーのある競馬で、ここは13着に惨敗している。短距離の直線競馬=スプリンターではあるが、あれはあれで辛抱強さを求められるものであり、特にコースの起伏が大きい英愛では速いだけでもこなせないものなのだ。そういったタフさを求められる部分を支えたのがダンチヒ×リファールのノーザンダンサー3×4であり、それを土台としたジェンティルドンナ自身のリファール4×4が瞬発力の上積みに寄与したということかもしれない。2009年の三冠牝馬アパパネはやはり母がノーザンダンサー系のスプリンターだったことも考えると、ダービー馬×スプリンター牝馬という、ある意味日本独特の配合パターンの良さを見直す必要があるかもしれない。
  府中牝馬Sに勝ったマイネイサベルはテレグノシスの産駒。トニービン直仔の父はNHKマイルC、毎日王冠、京王杯スプリングCとすべての重賞勝ちを東京で挙げただけに、今のところ唯一の重賞勝ち産駒である娘の復活の舞台はやはり東京だった。母マイネレジーナは函館3歳SとクイーンSで2着となった活躍馬で、祖母の産駒には東京記念のガンガディーン、ラジオたんぱ杯2歳S、中京記念のメガスターダムがいる。4代母タイイサミの孫オーバーレインボーはダート時代の札幌記念を連覇、同じくダニッシュガールはこのレースの前身である牝馬東京タイムズ杯に勝った。5代母ハマイサミの曾孫にはジャパンCのレガシーワールドがいて、プロポンチスに遡る小岩井牝系。古くからの名門に祖母の父マルゼンスキーからニジンスキーと米国血脈、母の父サンデーサイレンスが入ることで現代的なパワーが加わっている。トニービン×ノーザンテーストの父は初年度2007年の種付け46頭から2010年には14頭まで減っていたが、マイネイサベルが新潟2歳Sに勝った翌年の2011年には26頭にまで盛り返している。ジャングルポケットが孤軍奮闘のトニービン系だけに、今回の勝利が父の人気回復を後押ししてくれればとは思う。
  東京ハイジャンプではデンクオクトパスが春の東京ジャンプSに続いて重賞2勝目。父マヤノトップガンにとっても2つ目の重賞制覇となった。父系祖父がブライアンズタイム、母の父がリズムなので、ロベルト系×ミスタープロスペクター系のニックスとなり、リズムのミスタープロスペクター×ノーザンダンサー+ラトロワンヌ牝系という極上の良血が生きることになる。牝系は4代母の孫にサセックスS2着など欧州のマイルで活躍したグリーンラインイクスプレスがいる程度だが、祖母はサドラーズウェルズ×サーアイヴァーの欧州クラシック血統。米国血脈のブライアンズタイム、欧州血脈のアルプミープリーズ、米国血脈のリズム、欧州血脈のスポーデズブルーという祖父母の代のいわばシンプルな反復がスピードと持久力の確保に役立っていると思える。

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