ジョッキーのアクションがゴール前でさらに激しさを増す。なんとしても3冠を-。岩田康誠騎手の執念が、わずか約7センチの差に凝縮されていた。ジェンティルドンナが史上4頭目の牝馬3冠を達成。父ディープインパクトとの、日本競馬史上初の父子3冠の快挙を成し遂げた。
「よっしゃー!」
写真判定の結果を待つまでもなく、検量室前に引き揚げてきた岩田が、両手を大きく広げて喜びを爆発させた。
「ハラハラさせてすいませんでした。抜け出して遊んでしまって…。ヴィルシーナもすごい能力を持った馬だし、最後まで気は抜けなかった」
中団の外めから直線で一気に先頭に躍り出る勢いだったが、ライバルに並ぶと脚色が同じに。そこからは岩田の気持ちがジェンティルの目を覚ました。
競馬の神様は簡単にほほ笑んだりはしない。馬場に入場すると、大歓声に驚いたジェンティルが騎手を落としてしまう。岩田は鐙にかかった右足が抜けず、足首をひねってしまった。
「オレが手綱を放したら歴史が変わってしまう。死んでも放せないと思ったよ。でも痛さを忘れてしまうほど熱いレースだった」
右足を引きずりながらも、岩田の顔に笑みが広がった。春のオークスは騎乗停止期間中で自宅でTV観戦。悔しさをダービー制覇(ディープブリランテ)にぶつけ、ひと回り成長して3冠制覇に挑んだ。プレッシャーはあったが、昨年のブエナビスタの経験が生きた。ブエナにはジャパンCを「勝たせてもらった」が、ジェンティルの秋華賞は「オレが勝たせる」と強い気持ちで臨んだ。
この後は、エリザベス女王杯(11月11日、京都、GI、芝2200メートル)かジャパンC(11月25日、東京、GI、芝2400メートル)で4つめのタイトルを狙う。その先に見据えるのは世界制覇だ。
「チャンスはある。女の子から女性になれば世界に通用する名牝になれると思う」。過去の名馬の背中を知る男が3冠牝馬の明るい未来に思いをはせる。歴史に新たな1ページを加えたジェンティルドンナが、トリプルクラウンの勲章を胸に世界に羽ばたく。 (柴田章利)
◆岩田牝馬でGI6勝目 岩田騎手はGI17勝のうち牝馬で6勝。過去には歴史的な牝馬にも騎乗している。ウオッカ(GI7勝、引退)には2008年安田記念、ブエナビスタ(GI6勝、引退)には11年のジャパンCでそれぞれGI勝利をあげている。
◆複数の騎手で3冠達成は初 ジェンティルドンナの3冠で騎乗したのは、桜花賞、秋華賞が岩田康誠騎手で、オークスは川田将雅騎手。牡馬の7頭を含め、異なる騎手での3冠制覇は初めて。
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