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◆世界のビッグレースを知る騎手たちのプラス
予測された通りのスローで展開した難しい流れの中、昨年と同じように「ハナ差」で頂点のビッグレースを制した4歳牝馬ジェンティルドンナ(父ディープインパクト)は勝負強かった。
多くの馬にとって、本当はもっと速く走ることができるのに…、もっと鋭い切れ味を爆発できるのに……。高速の芝コースで展開された、ずっと我慢しつづけなければならないスローペースはつらかった。勝ったジェンティルドンナにとっても、少しも楽なレースだったわけではなく、ひょっとしたら外から一気に伸びてきた若い3歳牝馬デニムアンドルビー(父ディープインパクト)にかわされていたかもしれない。素晴らしいと感じたのは、ジェンティルドンナがジャパンC史上初の2連覇と称えられたR.ムーア騎手が、今年のジェンティルドンナの強さを誉めると同時に、「正式ではない(降着となった)が、ブエナビスタがジャパンCを2度先頭で入線しているではないか」と、ごく当たり前のようにブエナビスタの素晴らしさも口にしたことである。
牝馬スノーフェアリーで、2010年と2011年の「エリザベス女王杯」を2連勝したR.ムーア騎手は、2010年のジャパンCではジャガーメイルに騎乗し、ローズキングダム、ブエナビスタ、ヴィクトワールピサと差のない4着に突っ込んでいる。ジェンティルドンナの2連覇に大きく貢献しながら、勝利騎手インタビューで今年のことだけにとどまらず、ブエナビスタにも触れるあたりが世界のトップ牝馬を知る男の真価なのだろう。さすがというしかない。
今回のように、信じ難いスローペースになったりすると、各馬の持ち味が明暗を分けるのはもちろんだが、2着の浜中騎手以外は、「1着R.ムーア、3着W.ビュイック、4着C.ウイリアムズ、5着J.スペンサー」である。これはたまたまのことかもしれないが、世界のさまざまなビッグレースを経験するしたたかな騎手のプラスが大きかったことは否定できない。
レースの流れは、前後半に二分し「1分15秒2-1分10秒9」=2分26秒1。
良馬場で前半1200mが1分15秒台の超スロー(この日の6R500万下は1分12秒5)になったのは史上ごく稀であると同時に、これは今回の組み合わせでは予測されたことだった。
競馬はタイムトライアルではないから、500万条件の同距離より勝ち時計が遅くなっても不自然ではない。最後は500万クラスとは比べものにならない迫力の攻防で、緩い流れの前半を補うことが可能だからである。たとえレースの終盤だけとはいえ、凝縮されたビッグレースならではの攻防が展開されるなら、物足りないことはない。
そういうはずだったが、今回は最初からレースが壊れてしまった印象も否定できない。だれか先導役を買って出るかと思えたが、予測される超スローになれば、勝機はともかく善戦できる可能性が高くなるのは確かであり、好スタートから下げたヴィルシーナ(岩田騎手)を筆頭に、だれもが「先導はことわった」のが最初の出方だった。
好スタートのエイシンフラッシュ(M.デムーロ)は、ハナを切るつもりなど少しもなかったと思えるが、文字通り押し出されるように先頭に立たされてしまった。スローから上がりの競馬を得意とするエイシンフラッシュだが、これまでハナを切ってレースをしたことは一度もない。「しまった」。M.デムーロ騎手の動揺が見えた気がする。
覚悟を決めてレースを先導したエイシンフラッシュだが、もう最初からリズムを失っている。主導権をにぎったわけではない。3コーナー過ぎからレースのピッチは自然に上がる。そこから直線の坂上にかけて「11秒6-11秒1-11秒1…」=33秒8。相手を交わす加速ではなく、つつかれてスパートせざるをえなかったエイシンフラッシュは、この地点でゴール前で使うべき瞬発力を使わされている。残った最後の1ハロンはもう失速し、自身は12秒4。速い脚の使える距離が限られるからこそ上がりの競馬向きのフラッシュは、10着(0秒5差)に沈んだ。
◆ゴールドシップにはもっとも合わない流れ
ゴールドシップ(内田博幸騎手)は、今回は最初から気合をつけてレースの流れに乗ろうとする気はなく、互角のスタートから後方に控えた。京都大賞典のレースの中身、さらには天皇賞(春)のレース運びからみて、これはゴールドシップ=内田博幸騎手にとって、さらには陣営納得のやむをえない作戦だったと思える。今回、たとえば気合を入れて中団を進んだとしても、3コーナー過ぎから求められたペースアップ「11秒6-11秒1-11秒1…」のレースで、ゴールが見える前の800m-200mで連続高速ラップを要求されたゴールドシップが、とても最後まで伸びたとは考えにくい。この点ではエイシンフラッシュと同じであり、自分の脚を使いたいところでスパートしてそれがうまくはまるしかなく、だから、まくりきった菊花賞を上がり35秒9で勝ち、同じようにまくった有馬記念(上がり34秒9)を勝てるのであり、ゴールドシップの場合、こういうレースバランス「1分15秒2-1分10秒9」で、後半4ハロンがすべて「11秒台」でフィニッシュするようなレースはもっとも合わない流れだろう。自在性に優れ、我慢に我慢を重ねてレースの流れに乗り切った万能スピード系の天才牝馬ジェンティルドンナでさえ、こういう中身のレースだから薄氷のハナ差であり、あと1完歩で負けていたかもしれないのである。
陣営は内田博幸騎手の騎乗を非難したと伝えられるが、2-3歳時の1800m級のレースに出走していた当時のゴールドシップならともかく、有馬記念や菊花賞や阪神大賞典を勝つ馬に成長したゴールドシップは、後半の1000mが「58秒1-45秒7-34秒1-11秒9」で決着するような変則高速レースは、たとえムーア騎手が乗ろうと、ほかの日本人騎手が乗ろうと、対応できなかったと思える。ゴールドシップはそういう器用で如才ないタイプではないから、ゴールドシップなのであり、あきらめた直線はゴールドシップ自身が、(彼にとって)こんなくだらないレースはやってられないことを伝えて、やめていた。ゴールドシップは無敵の天才ホースではない。ときどき不可能を可能にしてみせるだけである。
かつて、ジャパンCに世界の強豪が顔をみせ、もっとはるかに盛り上がったころ、英キングジョージVI世&QESを勝った底力を買われて1番人気になった1990年のベルメッツ(6着)のH.セシル調教師が言った。「われわれはベルメッツの強さを信じて疑わない。しかし、世界には強さの尺度の異なる競馬があることを認めないわけにはいかない」。ゴールドシップ陣営に送りたい。
スローの流れで最大の長所が爆発したのは、軽量の3歳牝馬デニムアンドルビーだった。変に動かず、直線勝負に徹し、上がり33秒2で一気に突っ込んできた。前回のレースの反動はない。それに、今度は切れ味勝負になると読んで強気に挑戦した陣営も、持ち味をフルに生かし切った浜中騎手も見事だった。これでジャパンCの牝馬は通算【7-9-6-56】。出走数は全体の約15%にすぎないのに、「牝馬」の連対が全体の約24%となった。
こういう流れはみんな分かっていたが、それにしてもレースの盛り上がりに欠けたのはちょっと残念だった。メンバーからして大幅な売り上げ減は仕方がないが、迫力の白熱の攻防とはほど遠かったからだろう。接戦なのに、レース後のファンは張り合いがないくらい醒めていた。世界に通じるジャパンCで、頂点の競馬を見たかったファンの期待を裏切ってはいけなかった。
ジェンティルドンナにとっても楽ではなかった超スロー/ジャパンC
2013年11月25日(月)18時00分
- 注目数:16人
◆世界のビッグレースを知る騎手たちのプラス
予測された通りのスローで展開した難しい流れの中、昨年と同じように「ハナ差」で頂点のビッグレースを制した4歳牝馬ジェンティルドンナ(父ディープインパクト)は勝負強かった。
多くの馬にとって、本当はもっと速く走ることができるのに…、もっと鋭い切れ味を爆発できるのに……。高速の芝コースで展開された、ずっと我慢しつづけなければならないスローペースはつらかった。勝ったジェンティルドンナにとっても、少しも楽なレースだったわけではなく、ひょっとしたら外から一気に伸びてきた若い3歳牝馬デニムアンドルビー(父ディープインパクト)にかわされていたかもしれない。素晴らしいと感じたのは、ジェンティルドンナがジャパンC史上初の2連覇と称えられたR.ムーア騎手が、今年のジェンティルドンナの強さを誉めると同時に、「正式ではない(降着となった)が、ブエナビスタがジャパンCを2度先頭で入線しているではないか」と、ごく当たり前のようにブエナビスタの素晴らしさも口にしたことである。
牝馬スノーフェアリーで、2010年と2011年の「エリザベス女王杯」を2連勝したR.ムーア騎手は、2010年のジャパンCではジャガーメイルに騎乗し、ローズキングダム、ブエナビスタ、ヴィクトワールピサと差のない4着に突っ込んでいる。ジェンティルドンナの2連覇に大きく貢献しながら、勝利騎手インタビューで今年のことだけにとどまらず、ブエナビスタにも触れるあたりが世界のトップ牝馬を知る男の真価なのだろう。さすがというしかない。
今回のように、信じ難いスローペースになったりすると、各馬の持ち味が明暗を分けるのはもちろんだが、2着の浜中騎手以外は、「1着R.ムーア、3着W.ビュイック、4着C.ウイリアムズ、5着J.スペンサー」である。これはたまたまのことかもしれないが、世界のさまざまなビッグレースを経験するしたたかな騎手のプラスが大きかったことは否定できない。
レースの流れは、前後半に二分し「1分15秒2-1分10秒9」=2分26秒1。
良馬場で前半1200mが1分15秒台の超スロー(この日の6R500万下は1分12秒5)になったのは史上ごく稀であると同時に、これは今回の組み合わせでは予測されたことだった。
競馬はタイムトライアルではないから、500万条件の同距離より勝ち時計が遅くなっても不自然ではない。最後は500万クラスとは比べものにならない迫力の攻防で、緩い流れの前半を補うことが可能だからである。たとえレースの終盤だけとはいえ、凝縮されたビッグレースならではの攻防が展開されるなら、物足りないことはない。
そういうはずだったが、今回は最初からレースが壊れてしまった印象も否定できない。だれか先導役を買って出るかと思えたが、予測される超スローになれば、勝機はともかく善戦できる可能性が高くなるのは確かであり、好スタートから下げたヴィルシーナ(岩田騎手)を筆頭に、だれもが「先導はことわった」のが最初の出方だった。
好スタートのエイシンフラッシュ(M.デムーロ)は、ハナを切るつもりなど少しもなかったと思えるが、文字通り押し出されるように先頭に立たされてしまった。スローから上がりの競馬を得意とするエイシンフラッシュだが、これまでハナを切ってレースをしたことは一度もない。「しまった」。M.デムーロ騎手の動揺が見えた気がする。
覚悟を決めてレースを先導したエイシンフラッシュだが、もう最初からリズムを失っている。主導権をにぎったわけではない。3コーナー過ぎからレースのピッチは自然に上がる。そこから直線の坂上にかけて「11秒6-11秒1-11秒1…」=33秒8。相手を交わす加速ではなく、つつかれてスパートせざるをえなかったエイシンフラッシュは、この地点でゴール前で使うべき瞬発力を使わされている。残った最後の1ハロンはもう失速し、自身は12秒4。速い脚の使える距離が限られるからこそ上がりの競馬向きのフラッシュは、10着(0秒5差)に沈んだ。
◆ゴールドシップにはもっとも合わない流れ
ゴールドシップ(内田博幸騎手)は、今回は最初から気合をつけてレースの流れに乗ろうとする気はなく、互角のスタートから後方に控えた。京都大賞典のレースの中身、さらには天皇賞(春)のレース運びからみて、これはゴールドシップ=内田博幸騎手にとって、さらには陣営納得のやむをえない作戦だったと思える。今回、たとえば気合を入れて中団を進んだとしても、3コーナー過ぎから求められたペースアップ「11秒6-11秒1-11秒1…」のレースで、ゴールが見える前の800m-200mで連続高速ラップを要求されたゴールドシップが、とても最後まで伸びたとは考えにくい。この点ではエイシンフラッシュと同じであり、自分の脚を使いたいところでスパートしてそれがうまくはまるしかなく、だから、まくりきった菊花賞を上がり35秒9で勝ち、同じようにまくった有馬記念(上がり34秒9)を勝てるのであり、ゴールドシップの場合、こういうレースバランス「1分15秒2-1分10秒9」で、後半4ハロンがすべて「11秒台」でフィニッシュするようなレースはもっとも合わない流れだろう。自在性に優れ、我慢に我慢を重ねてレースの流れに乗り切った万能スピード系の天才牝馬ジェンティルドンナでさえ、こういう中身のレースだから薄氷のハナ差であり、あと1完歩で負けていたかもしれないのである。
陣営は内田博幸騎手の騎乗を非難したと伝えられるが、2-3歳時の1800m級のレースに出走していた当時のゴールドシップならともかく、有馬記念や菊花賞や阪神大賞典を勝つ馬に成長したゴールドシップは、後半の1000mが「58秒1-45秒7-34秒1-11秒9」で決着するような変則高速レースは、たとえムーア騎手が乗ろうと、ほかの日本人騎手が乗ろうと、対応できなかったと思える。ゴールドシップはそういう器用で如才ないタイプではないから、ゴールドシップなのであり、あきらめた直線はゴールドシップ自身が、(彼にとって)こんなくだらないレースはやってられないことを伝えて、やめていた。ゴールドシップは無敵の天才ホースではない。ときどき不可能を可能にしてみせるだけである。
かつて、ジャパンCに世界の強豪が顔をみせ、もっとはるかに盛り上がったころ、英キングジョージVI世&QESを勝った底力を買われて1番人気になった1990年のベルメッツ(6着)のH.セシル調教師が言った。「われわれはベルメッツの強さを信じて疑わない。しかし、世界には強さの尺度の異なる競馬があることを認めないわけにはいかない」。ゴールドシップ陣営に送りたい。
スローの流れで最大の長所が爆発したのは、軽量の3歳牝馬デニムアンドルビーだった。変に動かず、直線勝負に徹し、上がり33秒2で一気に突っ込んできた。前回のレースの反動はない。それに、今度は切れ味勝負になると読んで強気に挑戦した陣営も、持ち味をフルに生かし切った浜中騎手も見事だった。これでジャパンCの牝馬は通算【7-9-6-56】。出走数は全体の約15%にすぎないのに、「牝馬」の連対が全体の約24%となった。
こういう流れはみんな分かっていたが、それにしてもレースの盛り上がりに欠けたのはちょっと残念だった。メンバーからして大幅な売り上げ減は仕方がないが、迫力の白熱の攻防とはほど遠かったからだろう。接戦なのに、レース後のファンは張り合いがないくらい醒めていた。世界に通じるジャパンCで、頂点の競馬を見たかったファンの期待を裏切ってはいけなかった。
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