2013年6月22日土曜日

穴馬

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ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
 上半期の”グランプリ”宝塚記念(阪神・芝2200m)が6月23日に開催されます。残念ながら、オルフェーヴルが回避。11頭立ての少頭数となって、見た目にはかたい決着で収まりそうですが、思わぬ波乱があってもおかしくありません。
 というのも、すでに熱中症が騒がれるような、暑い季節に行なわれるレースだからです。馬は、基本的には寒いところが好きな動物です。気温が上がると消耗が激しいため、前走を使ったあとのオツリ(余力)はあるのか、調整過程は順調なのかなど、レース検討には各馬の能力以外にも、チェックすべき重要なファクターが増えます。ただし、そうした要素は外部から見ているだけではわからないことなので、時に大波乱が起こることがあるのです。
血統背景に魅力があるローゼンケーニッヒ。
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血統背景に魅力があるローゼンケーニッヒ。

 さて、波乱になるかどうかのカギを握るのは、レースの主力を形成し、人気の中心となる、明け4歳の3頭。昨秋のジャパンCを制して、3歳牝馬で史上初の年度代表馬に選出されたジェンティルドンナ(牝4歳)に、クラシック二冠(皐月賞、菊花賞)と有馬記念で勝利を飾ったゴールドシップ(牡4歳)、そして前走の天皇賞・春で悲願のGI制覇を成し遂げたフェノーメノ(牡4歳)です。
 この3頭、能力的には大きな差はないと見ています。ならば、宝塚記念に向けて、3頭それぞれの馬に加点、減点があるかがポイントになります。
 昨年の年度代表馬ジェンティルドンナは、いかにも牝馬という切れ味が武器。なおかつ、牡馬にも勝る勝負根性を持ち合わせています。その強さは、主戦が同じ岩田康誠騎手ということもあって、何かとブエナビスタと比較されることがあります。そして今回も、臨戦過程の類似から、当時のブエナビスタと比べられています。
 今年3月、ドバイに遠征したジェンティルドンナ同様、ブエナビスタも4歳春にドバイ遠征を実施。ドバイ・シーマクラシック(UAE・芝2410m)で2着と好走しました。ブエナビスタはその後、帰国後初戦でヴィクトリアマイル(東京・芝1600m)に出走。見事勝利を収めましたが、相手のレベルを考えれば、物足りない勝ち方でした。おそらく、完全な状態ではなかったと思います。さらに次戦の宝塚記念でも、強い競馬を見せながら、ナカヤマフェスタに敗れました。やはり、海外遠征の影響が少なからずあったのではないでしょうか。
 海外遠征に行けば、長時間の往復輸送だけでなく、帰国してからも検疫や着地検査があります。国内のレース後とは違って、調整にはかなりの苦労を強いられます。目に見えない疲労が残っていても不思議ではありません。
 片や、ジェンティルドンナは今回、3月のドバイ遠征後、5月のヴィクトリアマイルを使わずに宝塚記念に臨みます。その分、ゆとりのある調整ができたと思います。しかし、繊細な牝馬です。ブエナビスタよりも気性が勝っているタイプに見えるので、(海外遠征の)反動が残っている可能性はあります。その点は、マイナス材料でしょう。まともなら、突き抜けておかしくありませんが、レース当日まで綿密に状態をチェックする必要があると思います。
 減点材料は、ゴールドシップにもあります。前走の天皇賞・春(4月28日/京都・芝3200m)の不可解な敗戦(5着)です。レースぶりが、いつものゆったりしたものではなく、何か焦りを感じているような競馬でした。どこかで、(気持ちが)萎縮してしまうような出来事があったのかもしれません。
 それでも、こういうタイプの馬は、問題になるのは気持ちの面だけ。前向きに競馬に臨むことができれば、十分に巻き返せるでしょう。また、強烈な”マクリ”が武器ですから、直線が短い内回りとなる今回の条件のほうが、この馬には向いているような気がします。
 3頭の中で、最も減点材料が少なく、加点が多いと思うのは、フェノーメノです。前走の天皇賞・春では、初めての長距離輸送を難なく克服。唯一の心配も杞憂に終わる、強い競馬で勝利しました。
 もともと、いつGIを勝ってもおかしくないほどの素質馬でした。ところが、クラシックの前哨戦となる弥生賞(2012年3月4日/中山・芝2000m)で6着という不本意な結果を残したことが、ミソの付き始めでした。クラシック第1弾の皐月賞には出走できず、日本ダービー(2012年5月27日/東京・芝2400m)では勝利を目前にしながら、粘るディープブリランテにハナ差及ばず2着。古馬と初対戦となった天皇賞・秋(2012年10月28日/東京・芝2000m)でもいちばん強い競馬を見せながら、内をすくったエイシンフラッシュに出し抜けを食らうような形で2着に敗れました。昨年は、本当に運のない競馬が続いていたと思います。
 それが、今年に入って風向きが変わりました。日経賞(3月23日/中山・芝2500m)では、「苦手」と言われていた右回りで圧勝。そのまま、天皇賞・春で悲願のGIタイトルを手にしました。フェノーメノには今、”流れ”が来ていると思います。
 阪神競馬場は初舞台となりますが、内回りの2200mという宝塚記念と同じようなコース形態の、中山のセントライト記念(2012年9月17日/中山・芝2200m)で快勝しています。前述した日経賞を圧勝していることからも、前走の天皇賞・春より今回の条件のほうがフェノーメノには合っていると思います。好位で折り合って、終(しま)いも確実に脚を使ってきます。3頭の中では、この馬が優位と見ています。
「3強対決」も楽しみですが、オルフェーヴルの回避によって、3頭以外の馬が3着以内に飛び込んでくる可能性が広がりました。その候補として、今回の「ヒモ穴馬」に取り上げたいのは、ローゼンケーニッヒ(牡4歳)です。
 まだ、1000万下の特別レースを勝ったばかりの条件馬の身。ゆえに、ほとんど注目されていませんが、血筋に魅力があります。輸入繁殖牝馬ローザネイから始まる『薔薇一族』と呼ばれる牝系で、半兄には2010年にジャパンCを制したローズキングダムがいます。血統背景は、まさにGI級なのです。
 馬っぷりは、兄にも勝るとも劣らない好馬体の持ち主。かかる気性が災いして出世が遅れましたが、ここ3戦はクリスチャン・デムーロ騎手が手綱をとって、競馬を教え込んできました。道中うまくなだめて、前走の三木特別(6月1日/阪神・芝1800m)では、強烈な決め手を引き出していました。その決め手は、文字通りGI級のモノでした。いよいよ「素質開花した」と言っていいのではないでしょうか。
 距離が2200mに延びる今回は、折り合い面が課題になりそうですが、こういうタイプの馬は、クラスが上がって厳しいペースになったほうがより高いパフォーマンスを発揮します。そもそも、昨秋の神戸新聞杯(5着。2012年9月23日/阪神・芝2400m)では、見方によっては勝ったゴールドシップに次ぐ、強い競馬をしていました。人気馬3頭と同じ明け4歳馬のローゼンケーニッヒ。決して侮れない存在だと思います。

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