2014年2月9日日曜日

って

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井上泰平調教助手

昨年は史上初のジャパンカップ連覇という偉業を達成。それでもファンからは「1勝しかできなかった」という声を聞くが、超一線級の牡馬を相手に、全て3着以内にまとめているのだから、改めて歴史に残る3冠牝馬であることは疑いようがない。同馬の出走時のジャッジはお馴染み、井上泰平調教助手に、2014年始動戦を迎える女傑の態勢を伺ってきた。

JC連覇の偉業を振り返って

-:ジェンティルドンナ(牝5、栗東・石坂厩舎)の2014年緒戦になります。遅ればせながら、ジャパンカップ連覇おめでとうございます。あのレースを振り返っていただいて、天皇賞(秋)での課題だった折り合いに関してはいかがでしたか?

井上泰平調教助手:ありがとうございます。スローだったので、ジョッキーも結構苦労したと思うんですけど、ああいう我慢をできたということは収穫だったし、次に繋がるんじゃないかなと思っています。

-:ただ、調教を見ていると我慢をできる馬じゃないですか。どちらかと言うと、意のままに動くタイプというのがジェンティルの調教から見える個性ですが、JCではあのクラスでは遅すぎたラップだったので、掛かっても不思議はなかったんですけど、若干勝ち方として、もうちょっと付き離して勝ってほしかった、という願望を持っている人が多かったと思うのですが、それは井上助手から見てどうですか。

井:ジョッキーも言っていたように、ちょっと抜け出すのが早かったというのもあるんですけど……。

-:正直こんなもんじゃないぞというところも。

井:そういうところもありますよね。

-:一昨年のJCでオルフェーヴルに勝った時に底知れない強さを感じたのですが、それを感じると、去年一年の活躍が物足りなく感じてしまうというか、もっとあるんじゃないか、という期待を持ってしまうんですけど、ジェンティルドンナのパフォーマンスが落ちているということはないですか?

井:それはあんまり感じないですね。

-:古馬になってムチャクチャ強いジェンティルを期待しているファンも多いと思うのですが。

井:一昨年は負けなかったじゃないですか。みんなそのように思ってくれると思うのですが、昨年も狙ったレースに出走して、負けたと言っても、必ず3着までには入っている訳ですし、なかなかそういう馬はいないですよね。予定通りに必ず使えて、いつも上位争いをできるということは。確かに去年は勝てなくてやきもきしたんですけど、最後に勝てて良かったなと思いますね。



-:JCが終わった後のムーア騎手の感触はいかがでしたか?

井:まあ、ギリギリでしたからね。もっと離すかなと思っていたんですけど……。返し馬の時点で普段のキャンターのように落ち着いていて、いつもよりもすごくゆっくりなペースで感触を確かめるような感じだったので、その時に今日は大丈夫かな、という気はしました。

-:JC前の取材の時も“返し馬での止め方もちゃんとジョッキーとのコンタクトがとれて止められるか”という話はしていましたね。

井:そうですね。それが上手くいったと思います。

-:これまでジェンティルドンナは休み明けのレースを使って、2着、3着、2着という競馬を続けてきた訳ですけど、天皇賞(秋)を使った効果というか、着差はわずかだったにしろ勝てたという部分に関しては、やっぱりジェンティルでも使った方が良いのかなという気がしますか。

井:そんな気はしますね(笑)。

-:それが結果として明らかに出ていますけど、この先にドバイを控えた状況で休み明けの京都記念の今朝(2/5)の追い切りですが、井上さんがオレアリア(4歳500万)に乗って、福永ジョッキーが先週に続いてジェンティルドンナに乗って追い切られた訳ですが、横で見ていて動きはいかがでしたか?

井:ずっとジェンティルドンナが後ろにいて、抜かす時は12.1でスッと行ったので、道中の感じは全然見られていないんですよね。いつ来るのかな、と思ったら、3ハロン目でアッと思ったら前に行っちゃってて、あと最後は流しているような感じだったので。

-:それでも52.5の時計が出ていて、全然そうは見えなかったですけどね。終わった後に福永ジョッキーとちょっとお話をさせていただいて「これまでのレースには乗っていないが、折り合いがどうかというのが気になっているけども、調教に乗った感じでは全くそんな感じはないから、ここからレースでどう変わるのかが知りたいので、もうちょっと追い切りで跨る機会を増やしたい」とおっしゃっていたのですが、来週もジョッキーが乗る予定ですか?

井:調教師が決めることですが、大体、当該週は助手(当人)が乗ることが多いですね。


初騎乗・福永ジョッキーとの相性は!?

-:今回の京都記念もファンの注目は勝利を確約するような立場の馬なんですけど、そこの勝敗を見極める前に、返し馬でのジョッキーとのコンタクトがどうか、ということを確認した方が良いですね。

井:福永ジョッキーもソフトな乗り方をするので、きっとジェンティルには合うんじゃないかなと思います。

-:福永ジョッキーにしたら大役だと思うんで、「このクラスの馬だといきなりプレッシャーじゃないですか?」という話をしたら「プレッシャーじゃなくて、逆に楽しみだ」という話をしていましたよ。今日は追い切った後にジョッキーと話はされましたか。

井:次にゲートの縛りなんかもあったので、少しだけなんですけど「先週に乗った時よりも反応が良くなっている」という話をされてましたけどね。

-:ジェンティルのフットワークというのは、芝のトップクラスで走る馬にしては若干特殊というか、あのクラスでG1で活躍する多くの芝馬はもっと大跳びで跳ねる、そういう馬が多いと思うんです。そこで「ジェンティルはどんなフットワークですか?」と福永ジョッキーに聞いたら「上下動が少なくて、本当にスムーズでロスがない」と絶賛していました。

井:上下動が本当にないですよ。Cコースで乗ってもヒューと何事もないようにサッーと回ってきますんでね。

-:それは他の馬を含めても、そんなにお目にかかれない走り方ですか。

井:きっと持って生まれたモノでしょうね。

-:競馬の表現で言えば、大跳びとかピッチ走法とか、すごくザックリとした言葉しかないですが、それでは語れない何か違うモノを持っているんですね。今回の折り合いに関してはズバリ、普段の動きから見て心配なさそうですか?

井:調教で手こずることもなくて、こういう風にしていこう、というとおりに応えてくれるので、何かこれがダメだからこうだな、ということがない馬なので、いつも通りの調整はできていますね。

-:色んな意味で変化がない馬じゃないですか。だから、逆に掴みどころがないというか。

井:でも、放牧帰りすぐは、その中でも“休んでいたな”という様子があるんですよ。それが徐々に心肺機能が整っていく感じですね。今も順調に上がってきていると思うので。


-:京都競馬場で走るのは秋華賞以来ですね。やたらにオークスでの走りが印象的で。

井:あんまり右回り、左回りは関係ないと思うんですよ。右回りでも東京競馬場のような直線が長いコースがあったら、多分同じように走るんじゃないですか。

-:あのクラスで活躍している馬は右と左で極端に差がある訳はないですよね。

井:そうですね。普段の調教をする坂路でも、大体右手前で走り始めるんですけど、400mは右で走らせて、残り400は左で走らせるとか、コースを回っても右回りだったら右手前で、向正面の直線は左手前に替えて、ということをずっと2歳の時から癖にしているので。

-:自在に出来る訳ですね。

井:いつでも手前を替えれますし、ロスはないと思いますね。

-:左から右に替える時も、右から左に替える時も、癖は全くないと。

井:全く問題ないです。

-:それも福永ジョッキーが絶賛している一つでしょうね。

井:普段の調教に関しては自在性がありますね。

-:右回りと左回りで癖がある馬と言ったら、ニホンピロアワーズなんかも左回りが不得手だと言われていて、東海Sはどうなのかと思ったらメチャクチャ強い勝ち方で、終わってから酒井学ジョッキーに聞いたら「やっぱり左回りはもう一つや」と、あれだけ強い勝ち方をしていても言いますからね。あのクラスの馬は持っている能力があるから……?

井:そうですね。多分、大丈夫だと。右回りで追い切りをしても先着をすると思うし、左回りで追い切りをしても、きっと先着をすると思いますね。

-:でも逆に言ったら、調教を調教だとわかり始めているのでは。

井:そういうのはあるかもしれないですね。そこまで本気を出さなくなってきているのかなと。


「馬は関係なく全力で走ってしまいますので。しっかり仕上げないとケガにも繋がると思うので、いつもと同じような気持ちで、ちゃんと仕上げていこうと思っています」 


-:だから、乗りやすいまま調教は終われるのかなという。でも、レースとなったら、やっぱり12秒のラップが続いたり、ムチャクチャ我慢をしなくちゃいけないシーンがあったりするところが難しさですよね。

井:ただ、あの馬は“引っ掛かる、折り合いが”と言われるけど、持っていかれたジョッキーはいないでしょう。行ってる中でもここで我慢をしようとしたら、治まっている部分があるんで。どうしようもないという感じでドンドン行く訳ではないんでね。この間もそういうレースをしたし、今回もそういうレースをすれば、そんなにムキにならなくなるんじゃないかなと。


-:今日みたいに雪が降っていると芝の馬場状態にも影響を与えるかもしれないですけど、あれだけ走る馬でそんなに大跳びじゃなくて、むしろすごく良いピッチ走法の部類なので馬場はこなすと思うのですが、もし渋っても大丈夫ですよね。

井:宝塚記念ではプレッシャーを掛けられていたので最後はしんどくなりましたけど、あんなことがなければ、もうちょっと良い勝負になったんじゃないかなと思っています。

-:宝塚記念は確かに発表よりも馬場が悪かったですし、阪神は京都よりも悪くなる時に重くなると思うんですよ。今の時季の京都であそこまで悪くなることはちょっと考えられないと思いますから。

井:あんまりないでしょうね。

-:京都で悪くなったと言ったら、お姉さんのドナウブルーが勝った時にめちゃくちゃ時計が掛かっていた時ぐらいしか記憶にないですからね。ということは、死角なしですか?

井:それは競馬なので、死角は幾らでもあると思うんです(笑)。斤量も背負うでしょうし、何キロになるのかなと……。

-:この先にドバイが控えているので、目イチの仕上げではないとは思うんですけど、JCが100としたら、正直どれぐらいの仕上げですか?

井:馬は関係なく全力で走ってしまいますので。しっかり仕上げないとケガにも繋がると思うので、いつもと同じような気持ちで、ちゃんと仕上げていこうと思っています。

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悪コンディションで調教する難しさ

-:坂路の馬場状態は時計だけを見ていてもわかりにくいと思うのですけど、今日走った感触はどんなコンディションですか?

井上泰平調教助手:一発目の6時55分の組は時計が出ていたみたいなんですけど、その後になると、雪だったので、段々悪くなりましたよね。最近は雪でトモを滑らせて故障をする馬が多いので、滑るコンディションよりも若干悪くてもグリップするほぐれたところを走らそうということで、わざと意図的に遅らせてみたんですけどね。

-:それは見てもらったら分かると思うんですけど、(時間帯)一番の時は下が真っ白だったんですよね。真っ白で大丈夫かなという状況で走っていた訳なんですけど、それが5分も経てば、坂路のウッドチップの色になるという。

井:みんな通っちゃうんで、そういう色になるというタイミングで今日は行きました。

-:僕が“ジェンティルがなかなか来ないな”と思ってやきもきしていたのは、馬場がほぐれるのを待っていた訳ですね。いつ来るのかなと思って……。


井:実際に最近は大腿骨を骨折する馬が多いでしょ。前に僕も雪の時季に乗ったんですけど、滑る時は滑るんですよね。普通キャンターなんで、滑っても大丈夫なんですけど、それが速いところだったら、やっぱり抜けてしまうと折れちゃうんだろうなと。時計を出すよりも、安全に負荷を掛ける方が良いと思ってね。

-:井上さんはゆっくりソロッと入って。

井:時計を出そうと思えば出ますよ。

-:調教はそこが狙いではないですからね。

井:例えば、ウチのバンドワゴンなんかと併せ馬をしたら、2頭ですごい時計で走ってしまうと思うんですよね。それはちょっとやり過ぎになるかもしれないし、僕が併せ馬で乗っていた馬がちょっとタレちゃったので、1頭になっちゃったから、そんなにムキにならなかったんですけど、多分最後まで一緒に行けば負けないように走るんでね。

-:追い切りの話に戻しますと、福永ジョッキーは先週の感触があったから、それくらいのタイミングで仕掛けたけど、思ったより上昇してしまったから、ピューンと行ってしまったという感じですか?

井:3ハロン目の時計が12秒1だったので、3ハロン目で12秒1はちょっと速過ぎると思うんでね。

-:そこはもうちょっと並ぶ溜めが欲しかったと。

井:欲しかったような気もするんです。ただ、それくらい行き出した時の加速はすごいみたいですね。


「“競馬で引っ掛かる感覚を調教で何かどこかで見せへんかな”と思って乗っても、どこでも見せへんと思います。調教をこなすということを、馬も自分でわかっていると思うんで、バカなことはしないですよね」


-:今日は福永ジョッキーにとっても、アクセルワークの加減を知る機会になりましたね。レースではその感覚を持って乗れる訳ですね。

井:知る機会になったと思います。ただ、イメージが湧かないみたいです。乗りやすいんでね。「何回乗っても一緒やで。全然変わらへんから、どう乗っても一緒や」みたいな。

-:あとは競馬でのアドリブというか。

井:多分、“競馬で引っ掛かる感覚を調教で何かどこかで見せへんかな”と思って乗っても、どこでも見せへんと思います。調教をこなすということを、馬も自分でわかっていると思うんで、バカなことはしないですよね。

-:しかも、やり過ぎることをしないから、あれだけコンスタントに走れるんでしょうね。

井:まあ、そうでしょうね。

-:ジェンティルドンナの素質とジョッキーの感性で、どういうレースを見れるかというのが楽しみですね。


久々の当日競馬で増える可能性大

-:JCを使った後に放牧から帰ってきて、体重とか体調の変化は何かありますか?

井:いや、ないですね。体重もずっと変わらないですしね。まあ、何も変わらないのが、あの馬らしいところなので。

-:ちなみに今の馬体重というのを分かっている範囲で教えて下さい。

井:先週の木曜日時点で490。2月6日(木)時点で486キロですね。

-:と言うことはJCの時と比べると?

井:JCの輸送する週の木曜日に量った時が486とかだったんですよ。ほぼ一緒なんですけど、運ぶと減った感じもないんですが、全然違うんですよ。レースでは470やったと思うんですけど。府中のはかり(体重計)かもしれないですし、こっちのはかりの問題かも……。

-:はかりであるならば共通の仕様じゃないと意味がないんでね。

井:だから、“そんなに減ってるの?”みたいな感じで、何回行っても同じように出るんですよ。天皇賞(秋)に行った時も“エッ、こんな減ってんの?”というくらい減ってて、多分一緒の470やったと思うんですけど。


-:いつも量っているはかりで似たような体重だから、僕らはそんな誤差はないと思っておいて良い訳ですね。

井:今回は輸送が近くて当日競馬なので。最近は当日に競馬をしたことがないんですよ。ずっと遠征なので、競馬場に着いても明日競馬ちゃうかなぐらいの気持ちでいるんじゃないかと思うんですよね。

-:それは気持ち悪いですね……。ということは、そんなに誤差はないということですね。

井:誤差はないと思います。大体いつも同じ体重で、ここのはかりでは出てますんで。

-:最後にドバイ前の国内最終戦と言いますか、その走りを期待しているファンも大勢いると思うので、メッセージをお願いします。

井:今回も頑張ってくれると思いますので、応援してあげて下さい。馬は手を抜かないで一生懸命走ってくれるので。

-:強いジェンティルを期待しています。返し馬に注目しておきます。

井:結構、面白いと思いますよ。

-:わかりました。またドバイ前に取材をさせていただきますので、その時はよろしくお願いします。ありがとうございました。

井:こちらこそ。よろしくお願いします。

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【井上 泰平】 Taihei Inoue

大阪府豊中市出身。9歳から乗馬を始め、高校時代に国体を優勝。必然の流れにより大学では馬術部に入る。卒業後は美浦分場に2年間勤務。アイルランドの研修などを挟んだ後に競馬学校へと進学し、中村均厩舎からトレセン生活をスタート。その後は開業直後の角居勝彦厩舎で調教主任を務め、大久保龍志厩舎では持ち乗りから攻め専に転身。後の名門厩舎の基盤を築く。
32年に渡る馬乗り人生の中で、現在モットーにしていることは「馬との信頼関係を築くこと。分かりあえたかなと思っても、また違うのかなとそれの繰り返し」と。石坂正厩舎の屋台骨を支えるベテラン調教助手。 

【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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